今年の春先、週末をモロッコはマラケシュで過ごしました。まだ極寒のロンドンから直行便で3時間半南下。着陸が近づくにつれ、マラケシュの街全体が、ロゼ・ワインのような色に染まって見えるのが印象的でした(建物の外壁が赤土でできているため)。飛行機を降りた瞬間、ロンドンの極寒から解放された気分になれます。春先のマラケシュでは、日中は27-28度くらいまで気温が上がりますが、朝晩は10度以下まで下がるので、夏服・冬服の両方を持参し、正解だったと思います。目的地が一つにも関わらず、短パン+冬物コートをスーツケースに同時に詰め込んでいる最中、不思議な気持ちになりました。
マラケシュを選んだ理由が、3つあります。①「マジョレル庭園」といって、ファッションデザイナーのイヴ・サンローラン氏が生前に所有していた別荘が、一般公開されている。また「イヴ・サンローラン美術館」が最近完成したこと。なぜ彼がマラケシュに恋をしたのか? ということに興味がありました。 ②モロッコ料理とミントティーが好きであること(常に旅先で「食」を重要項目にするのは僕だけではないと思います)。 ③インテリア、特にランプを自宅用に買い付けたかったこと、です。
①マジョレル庭園について。ここは東洋美術作家のジャック・マジョレル氏(フランス人)の邸宅(1922年~)で、彼の愛する植物を世界中から集めて植え始め、ボタニカル・ガーデンを作りました。1950年にマジョレル氏が離婚してからはここを退去し、80年まで放ったらかしだっそうです。ホテル開発業者が取り壊そうと計画中に待ったをかけ、ここ全部を買い取ったのが、サンローラン氏とピエール・ベルジェ氏(フランス人投資家・実業家。サンローラン・ブランドの資本バッカーも兼務)のカップル。廃墟と化していた貴重な歴史的物件を、見事に蘇らせました。1966年にこのカップルがマラケシュに初めて訪れて以来、イヴ・サンローランの広告撮影は頻繁にマラケシュで行われています。この庭園、そして美術館共にサンローラン氏のコメントを引用しており「マジョレル庭園の色彩、そしてマラケシュ全体の色彩に常にインスパイアされて」いたそうです。マラケシュの街全体もカラフルで、混沌としており、砂塵が常に舞っているところなど、ユニークなところが彼にとっても魅力だったことでしょう。
②「食」のハイライトは「ソルト・マラケシュ」。地元の食材を活かした季節の料理・プレゼンテーション・建物全てが素晴らしく、僕が今まで訪れたレストランの中でもトップ・ランクに躍り出ました! モロッコ・ワインとの組み合わせも芸術的でした。③モロッコのランプは芸術性が高く、地元の職人によるハンド・メイドです。たまたま、滞在したホテルと同じ通りに、地元のレストランやホテルの人たちも買い付けに行くという店を見つけたので(ホテルのスタッフのオススメ)そこでランプをまとめ買い。モロッコでは観光客をターゲットに、値段をふっかけてくる業者が多い中(タフな値下げ交渉を常に心がけてください!)、ここは最初から良心価格をステッカーに表示してあり、その代わり値下げ交渉も不可。納得のできる買い物ができたと思います。
最後に宿泊は「リアド」もしくは「リヤド」というモロッコ伝統の邸宅(中庭のある邸宅。近年これが宿泊施設として修復されている)がオススメです。メディナといって旧市街(城壁に囲まれている)に集中しており、元々は富裕層の住まいでしたから客室数も少なく、とてもプライベートな空間・おもてなしを満喫することができます。豊かな色彩、カオスにも似たエネルギーを吸収すべく、マラケシュに行かれてはいかがでしょうか?
佐藤丈春(さとう・たけはる) |