夏休みも終盤になりましたが、皆さんはどこで休暇を過ごしましたか? これから休暇を取る方々に、イタリアの避暑地フォルテ・デイ・マルミをオススメします。ミラノ、ローマやフィレンツエなどの主要都市名は知っていても、この地名を聞いた事が無い、という方もいらっしゃると思います。ではどこにあるのか? 地図上でイタリアの形はブーツに例えられますが、その付け根の向かって左側、つまり西岸はトスカーナ州の北部に位置します。
この地区の何が特別なのか? それはイタリアの多くの地域に共通していることですが「知的な歴史」です。19世紀の後半には、既にイタリアの貴族、ドイツやフランスなどヨーロッパ各地からのジャーナリスト、芸術家や詩人などの知識階級から避暑地として愛されていました。
ホテル一つをとっても「知と歴史」に満ちています。例えば先月僕が宿泊して感激したのがホテル・アウグスタス。スタッフにも「日本人観光客は来ないんです」と知らされて驚いたのですが、日本語でネット検索をした限りでは、このホテルに関するまともな記事がないため、納得。なのでここをご紹介します(決して僕が日本人初の滞在者とは思いませんが)。
「アウグスタス」の由来はアウグスタ・ペセンティという、芸術家のパトロンをしていた裕福な女性です。1937年にペセンティ家が避暑のためヴィラ・ペセンティをこの地に作ったのですが、アウグスタが1953年にホテルに拡張・改装しました。因に時代は混ざりますが、ジミ・ヘンドリックス、カトリーヌ・ドヌーヴ、ジョディ・フォスターなどがこのホテルにチェックインしたそうです。
その後このホテルはイタリアが誇る車メーカー「フィアット」を創業したアニエリ家(3代に渡ってこのホテルの常連でもあった)によって買い取られました。1926年から隣のヴィラを所有していたアニエリ家は、ここを合体させます。ホテルとビーチの間には大きな道路があるのですが、これは第2次大戦後に舗装されたもので、ここを渡らなくてもいいようアニエリ家は「工夫」しました。その「工夫」とは「美しい地下道」を作ったことです。ホテルとビーチの往復一つとっても、アニエリ家とそのゲストのプライバシーを確保することが目的で、周辺を美しい松の木や花で囲みました。現在もこの道は残されており、ホテル滞在者が通れるようになっています。単なる移動も美しい「プレゼンテーション」の一部となっていて、感動しました。日本では、なかなかできない経験だと思います。
1969年にアニエリ家はこのホテルを売却しました。買い取ったのは、同ホテルのマネージャーだったニノ・マスキエット。一部を除いて当時の状態を残しているので、客室でも当時の名残を味わうことができます。いかがでしょう、興味が湧いて来ましたか?
佐藤丈春(さとう・たけはる) |
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