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連載コラム2016.10.26

連載コラム Vol.6 – ドバイはデザイン都市として成長するか?

佐藤丈春佐藤丈春

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10月末に、生まれて初めてドバイに行ってきました。僕がベースを置くロンドンでの気温は20度以下でしたが、ドバイでは日中35度まで達しました。真夏は50度近くになり、町中で人が出歩いていることは稀だそうです。それもそのはず、このドバイの大地は、もとは砂漠地帯でした。90年代以降に石油の輸出で金銭的に豊かになったアラブ首長国連邦(UAE)がここに大都市の建設を始め、今では高層ビル群の外が砂漠、という構図になっています。

本来砂漠であるドバイに「植物」が生えていて、町であるからには飲用水も必要です。それらのための水はどうやって仕入れているのか?ドバイにベースを置く、とあるドイツ人建築家によると、実は海水を淡水化して手に入れているのだそう(現状では決して地球環境に良い影響を与えてはいない模様ですが)。莫大な資金を持っているからこそ、実用できる技術であります。僕の肌は敏感なのですが、3泊したホテルでシャワーを浴びた後、肌の調子が良くなってしまいました。

ドバイの中心から車で30分程度でこの風景。周りが砂漠であることが分かる。手前にある植物は海水を淡水化してできた水によって育てられているそうだ。
ドバイの中心から車で30分程度でこの風景。周りが砂漠であることが分かる。手前にある植物は海水を淡水化してできた水によって育てられているそうだ。

ビーチもありますが、人工です。岩を海底から積み上げ、海水の上に達した当たりで砂を盛り、完成。「環境破壊じゃないか!」という声もよく聞かれるようですが、先ほどのドイツ人建築家によると、この人工ビーチ建設のために積み上げた岩の周辺に魚の群れが訪れるようになったそうで、それを保護するために、この海域での漁業は国が禁止しているとのこと。「人工」という言葉にはネガティブな含意がありますが、「人工」の副産物として生み出された自然環境。不思議な現象です。

本文でも触れた人工ビーチの風景。ビーチに高層ビルがそびえ立ち、建設中のビルが見受けられるのもこの町ならでは。
本文でも触れた人工ビーチの風景。ビーチに高層ビルがそびえ立ち、建設中のビルが見受けられるのもこの町ならでは。

なぜドバイに行ったのか?ドバイが初の「デザインウイーク」を主催したからです。UAEはその潤沢な資金を使って海外からの建築家やコンサルタントをスカウトしてドバイにベースを置いてもらい、様々な都市計画を進めており「中東のデザイン首都」になろうとしています。今回は世界でトップクラスの建築家ノーマン・フォスターが設計したキューブ状のビルを中心としてプレス会議、デザイナーやアーティスト作品の展示などを毎日開催。デザイナーやアーティストはカタール、クエート、レバノンなどの中東諸国から、遠くはロサンジェルス、メキシコやブラジルからも参加しており、国際的イベントにしようとする意気込みを感じました。

イギリスの建築家ノーマン・フォスターが設計したこのビルにて、様々な展示やディスカッションが行われた。
イギリスの建築家ノーマン・フォスターが設計したこのビルにて、様々な展示やディスカッションが行われた。
デザイン・ウイークのハイライトの一つアブワブ(アラビア語で「ドア」の意)。半透明の壁に砂漠の砂を入れ、その砂は人が触れると動く。この小屋の中でヨルダン、クエート、サウジアラビアなど各国のデザイナーが作品を展示。
デザイン・ウイークのハイライトの一つアブワブ(アラビア語で「ドア」の意)。半透明の壁に砂漠の砂を入れ、その砂は人が触れると動く。この小屋の中でヨルダン、クエート、サウジアラビアなど各国のデザイナーが作品を展示。

高層ビルの建設ラッシュが始まってからわずか25年ほどという、歴史の浅い大都市、ドバイ。今までは自己の富を象徴すべく、ビルの各オーナーはギラギラ光るような建物ばかりを建ててきました。近年ではドバイの若い世代が海外の建築やデザインとのギャップに気づき、上記のドイツ人建築家のような人々が起用されて町の景観を変えようとしています。また今回のデザインウイークによって海外からのデザイナーやジャーナリストからの意見も取り入れようとしていることが伺えました。この先、例えば5年後にどれだけドバイが変化しているのか、気になるところではあります。

ドバイに建設予定のクリエイティブ・コミュニティの模型。靴デザイナーのショールーム、ギャラリー、スタジオやベーカリー、カフェやショップなどの複合施設。
ドバイに建設予定のクリエイティブ・コミュニティの模型。靴デザイナーのショールーム、ギャラリー、スタジオやベーカリー、カフェやショップなどの複合施設。
レバノンのデザイナー、ナディア・エル・コウリーの作品。木の屏風内部のストロー素材はシリアの遊牧民が使っていたもの。主にトルコ、シリアから素材を手配して、現在忘れられつつある伝統的な模様を題材にしている。
レバノンのデザイナー、ナディア・エル・コウリーの作品。木の屏風内部のストロー素材はシリアの遊牧民が使っていたもの。主にトルコ、シリアから素材を手配して、現在忘れられつつある伝統的な模様を題材にしている。
筆者が気に入ったブースの一つ。メキシコのデザイナー合同出展。中央にあるチェアはトリビュートというブランドのもので、デザイナーのラウラ・ノリエガさんは京都に住んだことがある。
筆者が気に入ったブースの一つ。メキシコのデザイナー合同出展。中央にあるチェアはトリビュートというブランドのもので、デザイナーのラウラ・ノリエガさんは京都に住んだことがある。

佐藤丈春(さとう・たけはる)
1976年東京生まれ。2005年に渡英、2007年に英国王立芸術院卒業。グローバル情報誌『モノクル』に創刊から関わり、ファッションディレクターとして7年間努めた後、2014年独立。現在は英国・欧州ファッションブランドの広告・カタログのスタイリングやアートディレクションを中心に活動する。

この記事に関連するキーワード:アラブ首長国連邦ドバイ海外旅行

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