僕は昨年から、ロンドン郊外は南東部に電車で45分ほど離れた「ケント」という地区で毎年夏に開催される「The War & Peace Revival」に足を運んでいます。これは世界最大級の軍物のトレード・ショーで、古くは第一次世界大戦に遡って、軍服、戦車、銃刀や戦闘機などを展示・販売している場所なのです。5日から1週間にわたって行われるもので、毎年約10万人もの来場者があります。イギリス、アメリカ、カナダやヨーロッパの軍用品がメインに取り扱われている祭典です。
きっかけは友人のファッションデザイナーが誘ってくれたことで、彼は学生時代から20年くらい毎年欠かさず通っているそうです。彼のみならず、他にもファッションデザイナーやスタイリストがネタ探しに訪れる場所で、実際にファッション業界の、数名の知り合いに遭遇することもしばしば。広大な敷地に(ザ・ホップ・ファームという土地で、その名の通り19世紀以降ホップを生産する場所でした。現在はイベント会場)500ほどにも上るブースがそれぞれの得意分野の商品を陳列しており、そのうち半数近くがビンテージのミリタリー服を扱っているため、ファッションデザイナー、バイヤーやコレクターが通うのも納得。
入場するや否や、1940年代あたりにタイムスリップしたかのような、あるいは戦争映画のセットに迷い込んだかのような錯覚を覚えます。来場者の多くは第一次、二次世界大戦の軍服や看護婦を身にまとい、当時の車やオートバイにまたがり、移動しているではありませんか! 第二次世界大戦前後に飛んでいたイギリス空軍(ロイヤル・エア・フォース=RAFといいます)の「スピットファイア」戦闘機も、上空を飛びます!
中にはナチス・ドイツの軍服を着ている人も。ドイツはもちろん、ヨーロッパでナチスの格好をして街中を歩くと逮捕されますが、このフェスティバルの敷地内では、なんと許容範囲。日本からブースを出している業者もあり、大戦期の軍服、銃刀や日章旗などを販売しています。また日本から軍物古着のバイヤーも訪れていて、状態の良いビンテージ服を選別している姿も見受けられますね。
ミリタリー服はファッションに欠かせない要素ですが、一言で「ミリタリー」といっても、国・年代ごとに迷彩の柄が異なっていたり、砂漠での作戦か、極寒地でのミッションかといった目的や用途に応じた物作りがされていて、奥が深いことを知らされます。ファッションの世界では「ミリタリー服」つまり陸軍ものを「海軍」「空軍」とごちゃ混ぜにする人もいるかと思いますが、各分野での機能を追求した服ですから、大きく異なります。また戦争=歴史ですから、歴史を学ぶ良い機会にもなり、平和な日々を送れることに、改めて感謝する機会にもなりますよ。
佐藤丈春(さとう・たけはる) |