連載コラム2016.10.26

連載コラム Vol.4 – 古都リスボンが世界で再注目

佐藤丈春佐藤丈春

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日本のお盆の時期にポルトガルはリスボンで5日間を過ごしました。この国は15世紀以降、アフリカ大陸のアンゴラやモザンビーク、南米はブラジルを植民地化して帝国を築いたこと、そして1543年にはポルトガル人が日本の種子島に漂着し鉄砲を伝えたことをご存知の方も多いかと思います。両国の歴史のため、現地でも日本は長きに渡る友人と捉えている人々に多く出会いました。

1849年創業の陶芸工場のファサードが今でも残されている。こういった美しいタイルを貼った建物はリスボン市内の至る所で見られる
1849年創業の陶芸工場のファサードが今でも残されている。こういった美しいタイルを貼った建物はリスボン市内の至る所で見られる

現在も当時の建物がほぼそのままの形で多く残されていて(実はこれは問題点にもなっていますが、それは後ほど触れます)世界で最も古い都市の一つとして人気があります。人気の理由は近年、それだけではありません。「ヨーロッパで最も物価が安い都市の一つ」だからでもあります。僕が宿泊した友人の2ベッドルームのアパートは、1910年代の建物の内部を改装した素敵なもので、中心地から歩いて10分程度の好立地、日当りも風通しも良い間取りで月の家賃がなんと800ユーロ(約108千円)。ポルトガルは素晴らしいワインの産地で、ポルトワインは日本でも有名ですね。地元ワインをグラスで頼んでも1杯3ユーロ(約406円)。ランチも5〜10ユーロあれば、おいしいものを食べることが出来ます。タクシー代も例えば空港から中心地まで約15分でアクセスが良く6ユーロ程度(約810円)。物価が安い理由は近年の経済破綻です。かつて栄華を極めた帝国も、今や「リーズナブルな都市」の一つであり、それを目当てに観光客が最近増えています。町中のタクシーも80年代のメルセデス・ベンツ率が非常に高く、新車を買えないのであろうと思いました。

ポルトガルでは伝統のエッグタルト「パステル・デ・ナタ」。特に「マンテイガリア」という市内中心部にある専門店のもの(この写真中)がオススメ
ポルトガルでは伝統のエッグタルト「パステル・デ・ナタ」。特に「マンテイガリア」という市内中心部にある専門店のもの(この写真中)がオススメ
「ヴィーニョ・ヴェルデ」は僕の大好物。「緑のワイン」と直訳できるが実際に緑色というわけではなく、赤とロゼもある。若いグレープを収穫して生産するので「緑」の名が付いたそう。ほんのりスパークリング
「ヴィーニョ・ヴェルデ」は僕の大好物。「緑のワイン」と直訳できるが実際に緑色というわけではなく、赤とロゼもある。若いグレープを収穫して生産するので「緑」の名が付いたそう。ほんのりスパークリング

先ほど触れた、町中に多く残された歴史的物件も廃墟だらけです。住居物件がほとんどなのですが、大屋はいても改装する資金がないのだそうです。ですからリスボンの一等地にもかかわらず、ガラ空き物件が多数あります。もったいないですがこれは逆に「投資のチャンス」ですね。年間の日照時間は2,200〜3,000時間。日本は1,500〜2,200時間ですから、違いがお分かりいただけるでしょう。

ダントツNo.1の工芸ショップ「ア・ヴィーダ・ポルトゲーザ」。ポルトガルの生活、というショップ名の通り、石鹸、ワインやタオルなどハイクオリティなポルトガル産品が買える
ダントツNo.1の工芸ショップ「ア・ヴィーダ・ポルトゲーザ」。ポルトガルの生活、というショップ名の通り、石鹸、ワインやタオルなどハイクオリティなポルトガル産品が買える
1901年から電気を用いて走っていて(以前は馬車)、当時の面影をほぼ残している路面電車「エレクトリコ」。写真にあるのは右奥に通じる坂を往復するためだけの路線
1901年から電気を用いて走っていて(以前は馬車)、当時の面影をほぼ残している路面電車「エレクトリコ」。写真にあるのは右奥に通じる坂を往復するためだけの路線

国民のほとんどが流暢な英語を話します。またイギリスやフランスのファッションブランドの多くが、ポルトガル生産をしていることも業界内では有名です。工賃が安くてクオリティも良い、現在メイド・イン・チャイナも多いですが中国人に比べて英語でのコミュニケーションも容易、時差も同じEU圏であればわずかということでヨーロッパのブランドからの発注が増えました。それによって「メイド・イン・ポルトガル」自体が最近ではブランドとなり、例えば日本でも展開を始めた「La Paz」のようなポルトガル発のファッションブランドが生まれたりしています。

廃墟ビル。こういった建物が市内のあちこちで見かけられる。明らかに窓が開きっぱなしのものがほとんどで、大屋はいても完全に放置している
廃墟ビル。こういった建物が市内のあちこちで見かけられる。明らかに窓が開きっぱなしのものがほとんどで、大屋はいても完全に放置している
オペラリオ通りに最近できて話題を読んでいるナイトクラブ「ダマス」。週末となればこのとおり若者が道に溢れるほどの盛況ぶり
オペラリオ通りに最近できて話題を読んでいるナイトクラブ「ダマス」。週末となればこのとおり若者が道に溢れるほどの盛況ぶり

ファッションとワイン以外にも石鹸、タオル、オリーブ、タイル、缶詰やコルク(世界生産量の半分以上。農林水産省による)など、ポルトガルは「モノ作り」の伝統ある国です。近年では僕の友人を含めて、若いクリエイティブ系の人が物価の安さ、そしてライフ・クオリティの高さ(日照時間など含む)に惹かれて移住しています。今後リスボンでの投資・開発はどう進んでいくのでしょうか、注目です。

佐藤丈春(さとう・たけはる)
1976年東京生まれ。2005年に渡英、2007年に英国王立芸術院卒業。グローバル情報誌『モノクル』に創刊から関わり、ファッションディレクターとして7年間努めた後、2014年独立。現在は英国・欧州ファッションブランドの広告・カタログのスタイリングやアートディレクションを中心に活動する。

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